お侍様 小劇場

   “幻冬夢” (お侍 番外編 40)

        *女性向シーンばかりのお話です。苦手な方は、自己判断でお避け下さい。
 


こうなるように仕込んだなどという覚えはないが、
男の手による睦みでみるみるとその肌に熱を帯び、
乱れまいと自制する辛抱が却って、
凛とした風貌を淫らに歪め、
得も言われぬほどの色香や艶を増さす。

 「…ぁ。///////」

執拗に肌の上を這い、悦欲の疼きの潜む秘処を辿る、
男の指や手の堅い感触が、
日頃は分をわきまえて楚々としているこの彼を、
ここまで取り乱させていて。

 「…かんべ、さま。///////」

切れ切れになる声が甘く掠れて、
くっと息呑む 喉が鳴る。
微熱の潤みをたたえた眼差しが、さまようように揺れ震え。
うっすらと匂い立つ汗で、頬に一条張りついた後れ毛を視線で辿れば。
吐息に濡れて赤みの増した口許が、虐に耐えてのかすかに歪む。
日頃が清楚で健やかな姿をしているだけに、
そこからのこの落差の大きさがまた、
まだどれほど変わるのかとの、男の嗜虐をあおってしまうよな、
そんな罪な身をした彼であり。
しとどに甘いその態で、逆にこちらを取り込んで、
気負いも矜持も何もかも、
跡形なく蕩かして、酔わせて潰さす儚い玻璃蝶。

 「…ぁ。///////」

窓に帳を引いてはいるが、
そのすぐ外には昼日中の陽光。
庭から不意に飛び立つ雑鳥の羽ばたき、
遠いはずの人声や車の走行音。
それらが行き交う気配が殊更強く届くゆえだろう、
風儀の清い彼には尚のこと 羞恥の衒いも強いらしくて。

 「…。///////」

ひくりと震えては逃れようとするその四肢を、
柔らかく押さえては、衣紋を乱し。
手際よく剥いでいったその末に、
あらわになったは、暗がりにもそれと判る真白な肢体。
組み敷いたその身へ折り重なって、
相手の総身に高まってゆく熱を確かめ。
次に愛でるは合わせた肌のなめらかさ。
吸いつくような感触はどこまで撫でても離し難くて。
さてこれへ、唇で触れたらどうだろか。
獣が獲物を喰むおり、まずはと味わい尽くすよに、
重ねて喰み合っていた唇から浮かせた口許、
そのまま顎下へともぐり込ませて。
やはりなめらかな首元へ埋め、
柔らかなところをまさぐりながら、
徐々に徐々にと降ろしてゆけば、

 「〜〜。//////」

堅く閉ざされた目許から、じわり滲んだ潤みがあって。

 「しち。」
 「…っ。///////」

宥めるように名を呼べば、
我に返ったか…ひくりと震えたそのまま、
だが、乱れることを嫌がって。
こらえの杖にか、きつく口唇を咬みしめてしまう彼であり。

 「これ。唇が切れてしまうぞ。」

耳元間近で低く囁けば、
言葉よりも耳朶へ触れた吐息の熱に、
いやいやとかぶりを振った、愛しい情人。
日頃はきゅうとうなじに結われている金の髪も、
そのなめらかな金絲がほどかれ散らされ、
身じろぎに添うてさらさらと、涼しい音立て、敷布を擦って。

 「ぁ、や…っ。」

耐え切れずに零れた短い悲鳴。
その甘さがまた、聞く者には甘美な音でしかないそれのに、
当人へは…何と淫靡な性だろかという恥ずかしさとなり、
貞淑さの枷に抑えられた羞恥、
強く強く引っ掻いては、尚の熱を生むからキリがなく。

 「は…、ぁ…っ。//////」

御主の指がよほど悦いところにあたったか、
大きく震えたそのまま、白い踵が足元の布をしきりと蹴って。
逃れんとしてだろ、その身をずり上げかかるのを許さずに。
緩いながらも総身で押さえ、しっかと組み敷き、捕えれば、

 「ど、うか、どうか…勘兵衛様。」

何をか許してと請う顔をするのが、
そりゃあ切なく弱々しいのに。
どうしてだろうか、今ばかりは聞いてやれない勘兵衛で。
頬を朱に染め、息をあえがせて、
青い双眸 潤むほど、
どれほどのこと恥ずかしがって見せていても。

  遂には…陶酔に溺れてしまう彼だと知っている。

とろけそうな熱を帯びた肌が、やがては甘く匂い立ち。
きつく寄せた眉間に刻まれた翳りも妖冶に、
それはそれは美しく乱れる存在として。
この腕の中、
抑えも利かぬまま切れ切れに声を上げ、
深い深い悦に呑まれ、翻弄されたその末に、

  どうか何処へもやらないで、と

強くすがって来るのを知っている。
気が違いそうなほどの、焼き切れてしまいそうなほどの、
激しき官能と愉悦に呑まれて、
意識が攫われてしまうことへと怯え。
泣きながらしゃにむにしがみついてくるその時にやっと、
彼の側からすがってくれる。
折れそうなほどに指の節を立て、
手の甲が筋張るほど必死にしがみつき、
それ以上はないほど、捕まえていてと求めてくれる。
その一瞬の健気なすがりつきようが、
どうにも堪らぬ喜悦を招くので。
他のことなら何なりと聞いてやれる勘兵衛が、
唯一それへと達することへは、
どんな自制も利かぬほど、その放埒さを止められぬ。

 「あ…っっ。//////」

いやいやと叫びかけては息を詰め、
見苦しくも乱れるまいぞと強情を張る姿もまた、
不思議とこちらの情を煽ってやまず。
苦しげに耐えるところなぞ、ホントは見たくないはずだのに。
いやいや、だからこそだろう。
ほわりと熱い肌の下では、
もはや耐え難いまでの熱にまで煮立った、
何かしらの奔流が逆巻いているのだろうにと。
隠すことはないと、強情張らずに堕ちておいでと、
頑なな錠前を、お堅い枷を、
少しずつ絆して解いてやっているだけのこと。
自らの口許塞いだ手を捕まえて、
無理から外させ、顔の間際の敷布の上へ、
縫いつけるよにして押さえ込めば。
怯えにたわんだ双眸が、とうとう潤みをこぼして瞬いたので、

 ―― 怖いか?、と。

つい、そうと訊いていた勘兵衛で。

  何が怖い。儂か?
  それとも主の中におる何かを見られることか?

訊いても詮無い、やくたいもないこと。
だから、答えは要らないと。
柔らかな口許が動くよりも震えるよりも前に、
やや乱暴に塞いでしまう。
やわらかな肉芽は甘く、

 「ん…。//////」

やがては彼の側からも、応じて来るのが愛しくてならぬ。
怖くなんかないと、
私からも慕っておりますと、拙い応じで示してくれて。
あからさまな水音が立つのへも動じずに、
長い口吸い、堪能し、互いの熱を確かめ合った。

 「は…。//////」

勘兵衛だとて、
日頃からの常、淡白に納まり返っている態に、
無理から作った嘘も虚勢もない身であり。
欲も涸れての 情も枯れた…とは言い過ぎなれど、
それでも 強欲にまかせ誰ぞを組み敷いて凌駕したいとまでは、
ついぞ思ったことなどなかった方で。
それはきっと、
生まれにまつわる特殊な“お役目”に呑まれてしまい、
信じてはならぬ人を信じて、心が壊れてしまわぬようにと。
知らぬうちに身についてしまった、
一種の護心のようなものだったのかも知れないが。
そんなためにか、穏やかな外づらからは判らぬ深みで、
ともすれば人への関心が薄かった男が、

  ―― 唯一 心許した相手だったから。

この青年にだけはひどく執着して来た勘兵衛であり。
いつしか手放すことこそ脅威なほどの、至極無二の宝となった。

 「は…、や…ぁ…。///////」

七郎次の側から擦り寄って来た訳じゃあない。
絶対の恭順を示しつつも、
自分の立場をわきまえ、遠慮がちに構えてばかりな彼だったところが、
むしろ焦れったかったほどだった。
屈服させたいとか制覇したいと思ったことはなく、
ただ、大切にしたいのと同じほど…独占したくて、それで。
この自分から離れてゆこうとした気配に慌ててしまい、
彼を相手に“何処へもゆくな”と示したそれが、
彼には初めての宣令のように思えたものか。

  自由を封じた勘兵衛から、離れはしないと誓ってくれて。

そうではないと…すがって望めばよかったのだろか、
だがもはや 時を戻せはしなくって。
心の綾はもつれたまま、暗い迷路に孤独が二つ。
もどかしい想いは すれ違うばかりで、
いつしか吐き出せない溜息となり、
やがて鈍痛ともなう重石に変わって。
時折喉奥に狂おしいまでの微熱を掠めさせては、
日頃の穏やかな安寧をくつがえし、
狂暴な何かが燠
(おこ)って猛る。

 「あ…。//////」

我を嵩める蜜をくれと、
もっともっと甘く啼けと、つい望んでしまうほど、
こちらを煽ってならない魔性が彼の中に覗く。
いやさ、それはこちらに潜む獣性がそう見せるだけなのか。
責め苛
(さいな)んでいるかのようだと、
多少は気が咎めていたのも今は薄れて。
どうあってももっと乱れさせよという、
雄の剛情が止まらない。

 「ひ、ぁぁあ…っっ。//////」

昂ぶった身は、もはや抑えも利かないか、
力の入らぬ手が、それでもこちらの肩へと縋る。
細い質の髪が張りついた首元へ、
鼻の先で掻き分けるようにして顔を伏せ、
そのまま唇這わせれば。
耐えに耐えての硬直していた肢体が、今は。
立てた膝の間に男の体を迎え入れ、
わずかほど含羞みながらも…早くとせがむ。
薄く開いた唇が、蜜に濡れての艶を増し、
こうまで間近に寄り添う男の名、
それでも足りぬか しきりと紡いで。

 「暗くて見えぬのならば、さて、
  これへどうすれば儂だと判るものかの。」

精悍な肩から零れる豊かな髪へ、
うっとり頬擦りするばかりな青年へ語りかけ。
正気が飛んでは何もならぬと、これ以上焦らすのも辞めにして。
馴染みは深いが いつでもいつまでも瑞々しい、
愛しき伴侶のその身の深みへ、自身の熱を埋めたのだった。





   ◇◇◇



それから…さすがに疲れが出たか、
気をやっての昏倒した七郎次を追うように、
勘兵衛もまた、ほんの少しほど、うたた寝の中へと転げ込み。
どちらがどちらを起こしたものか、
相手の身じろぎや気配で目覚めて、さて。

 「…。」

丁度いい言葉が何も浮かばず、
さりとて、間近に咲いた愛しいお顔から視線を外せないまま、
ただただ見やっておったれば、

 「……どうされました?」

案じるような掠れ声が立つ。
立場が逆だと苦笑が滲み、

 「いやなに、愛らしいものだと思うてな。」

のぼせたようなお顔には、ほのかな疲労の色が見え。
なのに、それがまた得も言われぬ色香でもあるのが、
勘兵衛には愛らしく愛しいと思えた。
決して取り繕いの戯言ではないのだが、

 「…何を仰せか。///////」

たちまち真っ赤になった女房殿は、
揶揄と受け取ってしまったらしくって。
口許尖らせ、不興を買ったが、
それでも…照れ隠しにそっぽを向くことはないままであり。
彼もまた、こちらをよくよく眺めやってから、
改まったように囁いたのが、

 「ほんによくお帰りになられました。」
 「…何だ、今頃。」

怪我もなくお戻りになられて良かったと、
恐らくはそう言いたい彼なのだろと、
判っている勘兵衛だからこそ、知らぬ素振りでとぼけて返す。
夜空を焦がす紅蓮の炎に炙られながら、
黄昏色に照らされたその顔、ただならぬ集中に凍らせて。
見知らぬ街路を満たす闇の中、
務めの完遂に向け、ただただ死線を駆けて駆けて。
再びこのお顔を見るためとそれから、

  まさかに泣かせたりせぬように。

決して死ねぬと、
そりゃあもうもう獅子奮迅という働きをしたのだ、
帰って来なくてどうするか…と。
それこそ芝居がかった言いよう、してやりたいところだけれど。
それだと却って気負ってしまい、
彼への負担が増すこと、重々判っている勘兵衛だったから。
言葉少なに微笑って済ますが最上と、
目許たわませ、声を低めて。
このまろやかな温みを壊さぬように、
穏やかな応じで短く返し。それへのおまけで、

 「あ…。///////」

年甲斐もない種の愛撫だったが、額へと口づけを落としてやれば。
ほのかに疲れを滲ませていた彼だったはずが、
その目許を大きく見開き、真っ赤になって。

 「知りませんっ。///////」

案じていたのに、もうもうと、
今になってふりだしに帰ったか、
含羞みの態でそっぽ向くのがまたかわいい。
そんな女房の、膨れても可憐なお顔を堪能しつつ、
ああ我が家へ戻ったなぁと、
彼もまた今更な感慨を噛みしめる、勘兵衛だったりするのである。







  〜Fine〜 09.01.27.


 *父帰るの巻、真っ昼間から何なさいますの段でございました。(こらこら)
  新年早々、何かしらのお務めに出てらしたようですが、
  帰ってそのままコレですんで、
  今年もお元気な旦那様であり、お父様であるようでございます。
(微笑)

  この後、次男が帰って来、
  いそいそと夕食の支度にかかっている母の様子から、
  何かしら嗅ぎ取って…またぞろ腰をいたわってくれたら大笑いですな。
(爆)

めるふぉvv めるふぉ 置きましたvv

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